継続賃料の試算価格について「平仄を合わせる」行為の功罪

このサイトの中の記事でも折に触れて書いていますが、平成26年の鑑定評価基準の改正は大がかりなものであり、不動産鑑定士的にも衝撃的なものでした。

評価論的には、近時の最高裁判例に寄り添う形で、

  • 直近合意時点の明確化したこと
  • 契約自由の原則・私的自治の原則の、鑑定評価における位置付けを明確化したこと
  • 継続賃料独自の価格形成要因を整理し明確化したこと(事情変更と諸般の事情)
  • 公平の原則を導入したこと

が最も大きいところですが(各々については、賃料改定の基礎知識をご参照ください)、鑑定士的にこれよりも大きなインパクトを受けたのは、各試算賃料について「平仄を合わせるべき」と「不動産鑑定評価基準に関する実務指針」・「研修会テキスト」に明記した点でした。

試算賃料の平仄を合わせるとは?

試算賃料の平仄を合わせるというのは、各試算賃料がすべて「現行賃料」と「正常賃料」の間に来るように操作すべし、という発想です。

従前、素直に継続賃料を求める手法を適用した結果、

  • 差額配分法による賃料は、現行賃料と比して上向き
  • 利回り法による賃料は、現行賃料と比して下向き
  • スライド法による賃料は、現行賃料と比して下向き

等、各試算賃料がバラバラな方向を向いていて、この中から試算賃料の調整で鑑定評価額を決定してきたことに対する弁護士等からの批判に対応したものと思われます。

試算賃料の平仄を合わせる論理的根拠

当該発想のスタートは、上記に記した実務的な部分(批判回避)にあると思われるものの、当該発想には以下の通りの理論的な根拠は存在します。

各試算賃料に価格形成要因は織り込まれるべき

まず、各試算賃料は、機械的な処理ではなく、各価格形成要因が織り込まれて決定されていくべきという発想が有ります。

更に、今回の基準改正では、継続賃料固有の価格形成要因について、「試算賃料の調整だけでなく、手法の適用全部において勘案すべき」という価値観も「不動産鑑定評価基準に関する実務指針」・「研修会テキスト」に明記されていることからすると、「各試算賃料の平仄が合う事」には合理性が認められます。

公平性の原則との整合性

継続賃料評価において「公平の原則」が取り入れられましたが、この表れとして、「継続賃料は原則、現行賃料と正常賃料の間で決定される」という価値判断が示されています。

この発想からすると、各試算賃料も、「現行賃料と正常賃料の間に有る=平仄が有っている」方が整合的と言えます。

試算賃料の平仄を合わせる事の弊害

以上を見ますと、「試算賃料の平仄を合わせる事」は論理必然的にも思えますが、この弊害も存します。

素直な姿が見えない

このパートは、かなり私見の介在するところですが…「色付けをせず淡々と行った各試算賃料」には、

  • 差額配分は、正常賃料と現行賃料の差額を「折半したら」いくら
  • 利回り方は、直近合意利回りをベースに、元本価格の変動に基づいて賃料をスライドさせたらいくら
  • スライド法には、経済指数に合わせて賃料をスライドさせたらいくら

というのを示す役割が有り、これらの数字が裁判官の心証形成や、当事者及び代理人が主張立証を行う際の基礎資料になっていた側面が有ります。

これを、鑑定士が「平仄を合わせるため」に手を入れると、裁判官の素直な心証形成・当事者及び訴訟代理人の現況の経済事象等に立脚した主張立証が行い難くなる可能性が生じてしまいます。

平仄を合わせることの、技術的な困難性

価格形成要因を、適切に試算価格に取り込むというのは理想論ではありますが、手法の特性上「取り込みやすい要因」・「取り込みにくい要因」が有るのは事実です。

この中で、手法の特性上取り込みにくい要因を無理に反映しようとすると(EX.公表されたマクロ的な指数をベースにするスライド法で、「恩恵的契約からの離脱」等の要因を取り込む)、かえって恣意的な操作になってしまう危険性も有ります。

継続賃料の試算価格の平仄を合わせる事についての、私見

以上を勘案しますと、確かに改正基準の趣旨からすると「平仄を合わせる」のが合理的な継続賃料の試算賃料ですが、これに囚われることで「誰の得にもならない不可解な鑑定書」が生まれてしまう恐れがあると思います。

この中で、旧態依然とした対応のようにも思えますが、

  • まずは素直な姿を提示して、
  • 各試算価格にかい離が有るならばその理由を明確にして、
  • 試算価格の調整の段階でしっかりと利益衡量を行って鑑定評価額を決定していく

というスタイルが、当事者にも裁判所にも分かりやすいと思うのですが、如何でしょうか?

文責:碓井敬三

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