弁論としての不動産鑑定評価

2007年10月発刊の判例タイムズに掲載された「効果的立証・検証・鑑定と事実認定」と題した座談会(現職の判事と弁護士が参加)は、下記のような手厳しい鑑定批判に終始している。

『特に不動産鑑定については、鑑定理論というものをひねり出して、いろいろ名前をつけて権威がありそうにしているわけですが、法律家が余りそれに振り回されるのはどうかなと感じます』

『特に、継続賃料の問題などについては、総合評価が命ですから、鑑定理論、鑑定手法というドグマを勝手に作って、これだけが客観的に正しいといわんばかりの書き方に違和感を感じることも少なくありません』

『当事者双方の意見書のいずれもがその結論を記載するのみで、その前提となっている専門的知見が検証可能な形・方法で示されていないということであろうと思っています』

この辛辣ともいえる指摘を、鑑定士は反省材料として真摯に傾聴すべきと思う。冷水を浴びた頭で、賃料訴訟等において原告又は被告から提出される私的鑑定(当事者鑑定)について、改めて考えてみたい。

私的鑑定である以上、訴訟当事者の一方から提供された資料(事実)に基づいて、評価作業に突入するケースが大半と思う。従って鑑定書には評価の前提条件(契約内容や当事者事情に関する情報入手の方法と範囲等)を明記することが必要であり、改正不動産鑑定評価基準では鑑定書の必要的記載事項としている。

評価の基本的事項の把握にハンデを有しながら、利害拮抗する相手に対して評価額(改定賃料など)の説得を試みるのであるから、独りよがりの論証で対処できるはずがない。現行賃料の輪郭(現行賃料はどの程度高いか・安いか)とその原因(契約当初からか・直近合意時点以降の事情変更や賃料改定の頻度によるのか・拘束力のある特約条項の効力によるのか等)を、まず相手に納得してもらわなければならない。そのためには素人にも解るように説明(雄弁でなくとも、親切・丁寧な表現)することからスタートする必要がある。

しかし昨今の鑑定業界に蔓延しつつある算定ウィルスにより、訴訟鑑定領域にも玩具の比準表が採用され自動計算によって評価額が査定、またパソコン等によって入手したタダ乗りの情報によって紙面が埋められ、継続賃料評価の中核を占める契約事情の記述は全くないという評価書が多数出現している。

このような訴訟鑑定の荒野にあって、弁論としての鑑定領域に踏み出す決意は解釈(説明)作業としての鑑定への新たな船出である。この弁論としての鑑定はマッチョな鑑定士(※1)とインテレクチャルな弁護士(※2)との連携プレー(鑑定書の提出時期、どこまで依頼者の主張に寄り添えるかについての緊密な意見交換と局面によっては、弾力的な軌道修正を行う)によってのみ可能な鑑定領域と考える。また不動産訴訟の多くが判決ではなく付調停による和解等で解決されている裁判所の実態にマッチした高度な鑑定テクニック(調停官・調停委員に強い影響を及ぼす論証)の確立も急務と思われる。

(※1)
訴訟当事者の心象を洞察するイメージ力強化訓練で、鍛え上げられた筋肉質な鑑定士
(※2)
種々の事件を担当することにより、経験値を効率よく稼いだ弁護士

文責:五島輝美

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