鑑定尋問の回答で見る『諸般の事情』の勘案

平成26年の鑑定評価基準改定後は、「事情変更がなければ増減額なし」とする考え方が蔓延していますが、契約締結以後の『諸般の事情』により賃料の増減額が生じる場合が有ります。

公的鑑定(裁判所鑑定)を行った後に、被告からの要請による鑑定尋問に回答した以下の文書でこの辺りをまとめましたので、引用します。

鑑定尋問に対する回答

国交省発行の「継続賃料にかかる鑑定評価の方法等の検討」には、差額配分法における「貸主に帰属する部分の判定方法の整理 (1)当該差額のうち事情変更を起因とする部分の査定」で次の記載がある。

「………まずは対象不動産に係る直近合意時点と価格時点の新規賃料の差額を把握することによって、事情変更を起因とする差額部分を定量的に捉えることが肝要である。事情変更の分析においては、少なくとも価格時点の新規賃料のほかに直近合意時点の新規賃料に相当する額を求め、直近合意時点から価格時点までのその変動を把握することが必要である」。

この文章の皮相的な理解のもとに、被告代理人は「直近合意時点の新規賃料に相当する額が算出されてない理由は如何なるものか」と公的鑑定(裁判所鑑定)に疑問を呈している。

次に直近合意時点の経済的純賃料を8,321,612円ないしは6,083,050円と推計し、価格時点の経済的純賃料(5,836,638円)がこれより約30%ないし約4%下落していることが「差額配分法による計算において、どのように考慮されているのか」と質問、また「経済的純賃料が下落しているにもかかわらず、差額配分法に2倍のウエイトを置いた加重平均値を採用することが賃貸借当事者間の利益衡量にかなうと判断できるのか」と不満を述べている。

以下順を追って回答する。


今般の鑑定評価基準改正の前段階である国交省の「継続賃料にかかる鑑定評価の方法等の検討」では、事情変更に起因する賃料差額部分を定量的に捉えるために「少なくとも価格時点の新規賃料のほかに直近合意時点の新規賃料に相当する額を求め………」と記載されていたが、平成26年11月施行の改正不動産鑑定評価基準では試算賃料の調整段階での総合的勘案事項にトーンダウンしている。

「建物およびその敷地の継続賃料を求める場合の鑑定評価額は、差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び比準賃料を関連付けて決定するものとする。この場合においては、直近合意時点から価格時点までの期間を中心に、次にあげる事項を総合的に勘案するものとする………………(6)直近合意時点及び価格時点における新規賃料と現行賃料の乖離の程度………」

公的鑑定書の9~11ページに記載したE.試算賃料の調整と鑑定評価額の決定に総合的勘案事項(6)は十分に表現されていると思われるが、念のために補足説明をする。


価格時点及び直近合意時点の新規賃料は下記の通りである。

新規賃料相当額は、直近合意時点から価格時点の間に約25%ないし約11%ダウンしているのであるから、経済的賃料水準(本件では賃貸借契約書の特約事項を考慮して倉庫賃料並みの水準に査定)との均衡を図ることを主眼とする差額配分法による試算値に2倍のウエイトを置いた加重平均値を採用することは不合理であるとの被告代理人の主張は、答弁書の「契約自由の原則・私的自治の原則からして、事情変更がない以上は………賃料増額を認めるに足りえない」と軌を一にしている。

基礎価格・必要諸経費・スライド指数はマイナス(減額改定を指向)方向に作用している状況下で、緊急避難的に設定した著しく低廉な直近合意賃料で10年間に渡って家主を拘束してきた現状からの回復を如何に図るかが、本件公的鑑定の要旨である。

平成15年からの最高裁判例8本以降の下級審判例には「当初賃料が低廉というだけで、その後の事情変更がなければ増額請求ができない」とした事案がある一方、「増額要因となるような経済的事情の変動はないが、契約締結時の諸般の事情を考慮して増額を認めた」とする事案もある。

本件は増額改定にかかる事情変更はない(直近合意時点から価格時点の間に新規賃料相当額は約25%ないし約11%下落)が、それでも価格時点における現行賃料は新規賃料相当額(倉庫並みの賃料水準を設定)の約57%しかない低廉な水準に留まっていることを事由とする契約締結時の諸般の事情に基づく増額請求事件である。

従って約30%アップに求められた差額配分法による試算値に約18.4%ダウンに求められたスライド法による試算値、約18.6%ダウンに求められた利回り法による試算値を加味して本件改定賃料にアプローチすることにより賃貸借当事者間の利益衡量が図られると考えた。


差額配分法の適用に際して事情変更を起因とする賃料差額部分を定量的に捉えるために、国交省は直近合意時点と価格時点の新規賃料の差額を把握、これを貸主に帰属する部分の判定に反映させることを目論んでいたようであるが、訴訟鑑定実務を承知しているとは言えない空虚な考え方(「他の評価手法と平仄を合わせる」という記載もある)である。

本件が賃料減額請求事件であった場合を想定してみよう。

直近合意時点では新規賃料に比して著しく低廉であった合意賃料が、事情変更(基礎価格・必要諸経費等の下落)により価格時点では若干の変化(新規賃料の約43%の水準であったが、価格時点では直近合意賃料が約57%の水準になった)したことを、配分率にどのように反映させるのであろうか。

国交省の要請を受けた日本不動産鑑定士協会連合会・鑑定評価基準委員会は差額配分法の指針として次の記載をしている。「1/2法とか1/3法という結果ありきの方法により機械的に決めるのではなく、差額配分の発生要因を適切に分析して配分率を求める」と抽象的な記載に留め、具体的な配分率の判定方法は検討されていない。

大阪で開かれた「継続賃料評価をめぐる実務的な諸問題」と題したシンポジウムで、鑑定人は「差額配分法ではなく差額折半法の妥当性」を主張した。

継続賃料の解釈手法は、いずれもチナミに手法(因みに賃料差額を折半して試算値にアプローチする・因みに物価指数、家賃指数、サービス価格指数などを採用して試算値にアプローチする・直近合意時点の合意内容を実績利回りで数値化して捉え、価格時点の基礎価格にそれを乗じて試算値に因みにアプローチする)でしかなく、これらの手法により求めた試算値を如何に調整(解釈)して改定賃料にアプローチするかが継続賃料評価の原則である。

以上

文責:五島輝美

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