私的自治の原則・契約自由の原則の賃料増減額訴訟における表れ

賃料増減額改定の調停・訴訟等で出てくる言葉の中で、なかなか理解しにくいのが「私的自治の原則」・「契約自由の原則」という言葉と、その賃料増額改定・賃料減額改定への表れです。

私的自治の原則とは?

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典によると、「私人間の法律関係すなわち権利義務の関係を成立させることは,一切個人の自主的決定にまかせ,国家がこれに干渉してはならないとする原則で,過失責任,所有権絶対の原則とともに近代法の基本的な原則の一つをなす。契約自由の原則がその代表的なものであるが,その他遺言の自由,社団結成の自由などの原則もこれに含まれる。」と定義されています。

要するに、私人間の契約等ついては、「私人間の自由に任せる」という発想で、日本の民法でもこれが大原則になっています。

但し、これを徹底しすぎると不都合が生じるため、民法第1条では、

  • 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
  • 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
  • 権利の濫用は、これを許さない。

という制限がなされています。

契約自由の原則とは?

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典によると、「契約を当事者の自由にまかせ,国家はこれに干渉してはならないとする近代法の原則(私的自治の原則)の重要な一つ。その内容は通常,契約をする自由としない自由,契約の相手方選択の自由,契約内容決定の自由,方式の自由,契約変更ないし解消の自由の5つに分けられる。この原則は,経済上の自由放任主義に対応するものであって,資本主義社会の自由競争的段階においては社会の発展に大いに寄与した。しかし資本主義社会が独占的段階に入って,社会的・経済的弱者保護のため自由競争が制限され,国家が経済関係に介入するようになると,契約自由の原則も制限されることになった(たとえば,労働基準法,独占禁止法など)。」とされています。

私的自治の原則について、「契約」に関する部分に特に着目したもので、契約する/しない・相手方の選択・内容の決定等、国家に強制されず私人が自由に行って良い、というものです。

こちらについても、上記ブルタニカの説明にもある通り、徹底しすぎると不都合が生じるため、各種法律等で制限されています。

判例に見る私的自治の原則・契約自由の原則の取り扱い

上記の記述を見ると、「これらを原則としつつ、かなり制限されている」印象が有るのですが、賃料増額交渉・賃料減額交渉の判例からは、私的自治の原則・契約自由の原則が「大原則」で有る部分が強調されており、その不具合は「借地借家法で合意後の事情変更に対応できるようにしたことで、すでに解消済」(当初契約が安すぎた等は賃料増額改定・賃料減額改定で解消するべきものではない)という立場と把握されます。

以下をご覧いただければ、そのニュアンスを感じていただけると思います。

従前の合意賃料額が、種々の個別的事情が反映されて、もともと相場賃料よりも高く設定されていれば、改定賃料も相場賃料よりも高くなるべきであり、逆に相場賃料よりも低く設定されていれば、低くなるべきであって、それを相場賃料と同等にすることは、借地借家法32条の予定していないことであり、かえって契約自由の原則に反する結果となるから原則として許されないというべきである。
東京地裁平成10年2月26日判例時報1661号102頁

借地借家法32条1項は、契約自由の原則を前提としながらも、借家関係が継続的な法律関係であることに鑑み、事情の変更に応じて、公平の原則の観点から、契約当事者に賃料の増減を請求する権利を認めたものである。
東京地裁平成13年3月7日判例タイムズ1102号184頁

借地借家法32条は、契約自由の原則を前提としながらも、賃貸人と賃借人の継続的な関係にかんがみて、事情の変更に応じ賃料の増額請求権を認めたものである。
東京地裁平成10年12月3日金法1537号55頁

借地借家法32条の賃料増減額請求権は,建物賃貸借契約が長期間に及び得るものであることから,公平の原則に基づいて認められたものであり,もともと,賃貸借契約開始後において,現行の賃料が「不相当となったとき」に爾後の賃料額の増減を認めるために設けられた規定である。
また,当初賃料額は,賃料相場等とは無関係に当事者が自由に決めることができるものであって,借地借家法が介入すべきものではないと考えられる。
松並重雄最高裁判所調査官「最高裁判例平成15年10月21日判例解説」法曹時報58巻4号212頁

この記事のまとめ

この記事では、私的自治の原則・契約自由の原則を解説させていただくとともに、賃料増額請求・賃料減額請求時に裁判所がこの原則をどのように扱っているかを解説させていただきました。

我々の一般的な認識では、

  • 「賃料が相場に比べて安ければ、賃料増額が出来る」
  • 「賃料が相場に比べて高ければ、賃料減額が出来る」

と思いがちですが、上記を読んで頂ければ、裁判所は事情変更を賃料増減額の主要な要素と考えていて、

  • 契約当初、安く契約しすぎた
  • 契約当初、高く契約しすぎた

ということを理由とした賃料増減額は、訴訟の場面においては、なかなか認めてもらえないことが分かっていただけるかと思います。

文責:碓井敬三

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