継続賃料の『直近合意時点』決定は、実は難しい

賃料増減額交渉において、直近合意時点は非常に重要な役割を示します。

賃料増減額請求権の発生の有無及び、増減額後の賃料(鑑定評価における「継続賃料」・訴訟において裁判官が判決で提示する「相当賃料」)は、主として『直近合意時点』以降『価格時点』までの事情変更をベースに判断されるからです。

この中で平成26年改正前の鑑定評価基準では、『直近合意時点』に対応する概念が『現行賃料を定めた時点』とされており、賃料交渉が行われた結果、賃料の増減額が行われた場合は分かりやすいのですが、

  • 賃料自動増額特約が有った場合はどうなのか?
  • 自動更新の場合はどうなのか?
  • 交渉の結果の横ばい合意が有った場合はどうなのか?

等で、明確な基準が無く、評価主体によって判断が異なってしまうのが現状でした。

平成26年の不動産鑑定評価基準改正による整理

かかる状況を受けて、平成26年に行われた鑑定評価基準の改正の中では、『直近合意時点』という概念を新設し、これを「契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点」と定義しました。

そして、直近合意時点の確定が不適切な例として『不動産鑑定評価基準に関する実務指針』で以下の3点を例示しました。

賃料自動改定特約があり自動的に賃料改定がされている場合に、当該自動的に賃料が改定された時点を直近合意時点としている場合

→賃料自動改定特約の設定を行った契約が適用された時点とすべき

賃料改定等の現実の合意がないまま契約を更新している場合に、当該契約を更新した時点を直近合意時点としている場合

→現実の合意があった賃料が適用された時点とすべき

経済事情の変動等を考慮して賃貸借当事者が賃料改定しないことを現実に合意し、賃料が横ばいの場合に、当該横ばいの賃料を最初に合意した時点に遡って直近合意時点としている場合

→賃料を改定しないことを合意した約定が適用された時点とすべき

また、複数の解釈が生じる余地のある「合意しそれを適用した時点」については、同じく実務指針で以下の通り整理をしています。

賃料増減請求について判断する際には、契約当事者間で現実に合意した時点(合意時点と合意した賃料が適用された時点に乖離がある場合は合意した賃料が適用された時点となる)が基準となる。

これによって、不動産鑑定評価における事情変更に係る判断の起算点の判断基準は、幾分整理されたと評価できます。

尚、当該改正は、不動産鑑定評価基準の中での話ですが、

  • 上記の整理は、昨今の判例を踏まえて行われていること
  • 鑑定評価基準で定立した規範は、訴訟当事者の主張・立証においても援用されること

から、実際の賃料増額訴訟/賃料減額訴訟においても、上記の基準が『直近合意時点』の判定基準として機能していくものと思料されます。

未だ解釈の余地のある直近合意時点

但し、H26年改正から相当な期間が経過した今日(原稿を書いているのはH30.8.19です)でも、訴訟等においては直近合意時点について争われることが多いのが実情です。

  • (前記の整理は有るものの)「合意しそれを適用した時点」が決定された背景に『意思決定時点』という価値判断が感じられ、それを徹底するか「適用した時点」の文言を重視するかで結論が変わること
  • 不況期に良く行われた「賃料の一時減額」について、一時的な恩恵的措置的なものから、長期間に渡り減額改定と同視しうるものまであり、これの取り扱いが明定されていないこと
  • 同族間等で、そもそもの契約内容が不確定かつ、賃料支払額も一定ではなかった場合等、合意時点の確定自体に解釈の余地を有する場合が有りうること

等がこの原因です。

この中で、裁判所から鑑定士が依頼を受ける「第三者鑑定」で、複数の直近合意時点を前提に鑑定評価を依頼されるケースも多くあります。

勿論、今後の判例の蓄積や、添えを踏まえた鑑定評価基準の改正等で、現況の不明確な点も、徐々に類型化されていくとは思いますが、ほとんどのケースで争いなく『直近合意時点』を決められるようになるには、未だ相当の期間を要するものと予想します。

この記事のまとめ

この記事では、賃料増額請求/賃料減額請求に係る訴訟において、事情変更の起算点として重要な役割を有する『直近合意時点』についてまとめてみました。

この認定によって、特に訴訟領域に入って判決で決定される場合の結果が大きく変わってくる余地が有ります。

訴訟の場面では、解釈が複数ある場合は、自己に有利な解釈が妥当であることを主張・立証して相手方・裁判官を納得させる必要が有りますが、これには当該分野に明るい弁護士・不動産鑑定士の助言を仰ぐことが必須になります。

「何の気なしに(今のご時世ですと)賃料増額を申し入れた所、調停になり訴訟になってしまって、後付けで準備が必要になる」となりますと、かなり不利な状況に追い込まれる可能性がございますので、事前の準備等は慎重に行うことをお勧めします。

文責:碓井敬三

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